Adobe MAX 2015で発表されたアドビが研究中の新技術〜スニーク・ピークで発表された未来の11の技術

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アメリカ・ロサンゼルスにて開催されているアドビシステムズ(以下、アドビ)のクリエイティブティ・カンファレンス「Adobe MAX 2015」。初日の基調講演(参考記事「[速報]Adobe MAX 2015 基調講演レポート」)に続いて、二日目は「スニーク・ピーク」というアドビが開発中の実験技術を紹介する講演が行われました。紹介された技術は将来的に搭載されるかもしれない技術であり、未来のAdobe Creative Cloudの新機能を一足先に知ることができます。現地に渡った弊社ICSの池田が速報レポートとしてお伝えします。

簡単な操作で新しいフォントを作り出せる技術:Project Faces

フォントの骨格を解析し、字形を自由自在に調整し新しいフォントを作成できる技術。

▲フォントの字形の骨格が解析される

字形の太さ・斜体・髭・ステンシル・横棒・手書き風の歪みをスライダーで調整することができ、独自のフォントを作り出できます。調整したフォントはベクターデータやフォントファイルとして書き出すことができます。

▲フォントの太さを調整

▲フォントを細くすることができる

▲手書きのような歪みを適用することも可能

▲ステンシル加工もできる

Adobe MAX参加者はこの技術を目の当たりにし、いかようにもフォントが調整できるようになるので、フォントの著作権がどうなるのだろうと議論し合いました。意匠的にも市場的にもインパクトの大きい技術だと筆者は感じました。

写真から3Dデータに変換、それも3Dプリンターで印刷:Photoshop 3D Portraits

3D Portraitsは平面(2D)の顔写真を解析し、3次元化する技術。3次元化したデータはPhotoshopで開くことができ、3Dプリンターで印刷するデモが実演されました。

  1. 「Auto Detect」で人物の顔の要素を認識させる
  2. 青色のラインは顔の輪郭や目や鼻を認識したことを示す。誤認識は手作業で調整が可能
  3. 専用ソフトにて約15秒のGPU処理を得て、3Dに変換される
  4. OBJファイルとしてPhotoshopで開くことが可能
  5. Photoshopから3Dプリンターで印刷できる
  6. 人物の顔が3Dのポートレートオブジェになる(※)

▲顔の要素を自動解析させる

▲3Dデータ(OBJファイル)はPhotoshop CCで読み込むことができる

▲人物の顔画像をテクスチャにすれば、3Dの人物データができる

▲ステージでは印刷された3Dのポートレートオブジェの実物が紹介された

2次元の画像から立体化する技術だけでも十分驚きですが、3Dプリンターで印刷するワークフローまで提案されました。技術自慢というわけでもなく、マーケットも意識されている発表でした。

映像の雰囲気にあわせて最適なBGMが生成される技術:Project Boxcar

映像の起伏(おとなしい映像や動きの激しい映像)の雰囲気にあわせて、音楽をリミックスする技術。映像の肝になる箇所が自動的に解析され、自動的に音楽のテンポやビートが調整されます。Premiere Proに実験的に搭載され、鉄道の映像(出発時やトンネルなど起伏の大きい映像)を題材に実演されました。百聞は一見に如かず、ぜひ次の動画をご覧ください。オリジナルは同じ音源ですが、映像にあわせて音楽が自動的に編集されています。

ビッグデータをもとに、写真に写った不要物の除去が可能に:Defusing Photobombs

写真の不要物をビッグデータで自動的に解析し、写真から不要物を消去することができる技術。

数万枚の写真からレタッチ作業(合成)で消される傾向のある不要物をビッグデータとして解析し、機械学習を実施。ソフトウェアが不要物を認識できているので、編集者(ユーザー)はスライダーを操作するだけで写真から不要物を除去できます。スライダーで「不要なもの」の閾値を調整することも可能です。

▲機械学習したソフトウェアが自動的に標識を「不要なもの」として認識する

▲不要なものはマスクすることができる

会場では砂浜に写った標識(不要物)を消去するというデモが実演されました。「コンテンツに応じて削除」というPhotoshop CCの機能の拡張ですが、ビッグデータ/機械学習によりユーザーのスキルを必要としないことに筆者は魅力を感じました。

動画をもとに、写真から不要物を除去できる技術:Monument Mode

映像の中の動いているものだけを映像から除去する技術。観光客が多い名所で写り込む人を消すことができることが実演されました。リアルタイムに人を除去することができ、カメラを撮りっぱなしにしておくと、差分から建物の絵だけを残し無人の状態の写真に仕上げることできます。

▲写真の中に人が写り込んでしまった

▲この技術を使えば人を除去することができる

観光地で観光客が映り込み名所の写真の撮影に苦労した人は多いと思います。筆者はこの実演をみてスマホカメラに搭載されれば、クリエイターだけでなく一般の方々も観光地の写真撮影が楽しくなると思いました。デモはタブレット・スマートフォンで紹介されていましたが、誰もが使えるアプリとして公開されそうですね。

先ほどのビッグデータをもとにした「Defusing Photobombs」と実現できることは似ていますが、複数のアプローチでユーザーが求めている機能を実現しようとしていることが筆者はおもしろいと思いました。

写真から陰影をレイヤーに分離する技術:Extract Shading

写真から陰影を解析し、自動的にPhotoshopのレイヤーに陰影と下地と文字を分離する技術。

たとえば、絵が描かれているTシャツの写真をPhotoshopで解析すると、Tシャツの陰影、下地、テキストと3つのレイヤーに分かれます。デモでは「SALE」という文字が別レイヤーになっているため、「S」という文字を消し元の写真に合成するテクニックが披露されました。

▲こちらはオリジナルの画像

▲写真から文字情報がレイヤーに自動的に分離された

▲写真から陰影だけがレイヤーに分離された

▲レイヤーが分離されているので、Tシャツの模様の編集が簡単に

静止画からフォントの一覧を解析:Deep Font / Font Capture

静止画からデザインに使われているフォント情報を解析する技術。人工知能が使われグラフィックデザイン内のフォントの一覧を取得できます。デザイン製作の際に目的とするフォントを選ぶのは手間のかかる作業ですが、この技術を使えばフォント選定に役立たせることができるでしょう。

モバイルアプリ「Font Capture」も紹介されました。Deep Fontの技術によってTypekitのフォントをはじめとして、7500のフォントを認識することができるそうです。

写真の遠近感を解析することでイラスト描画が楽になる技術:Project Dollhouse

モバイルデバイスで撮影した写真の遠近感(パースペクティブ)を解析し、Illustratorでの製図や背景制作に役立てることができる技術。

▲赤い線は写真からパースペクティブが自動的に解析されたもの

遠近感や消失点といった3Dの情報がIllustrator側で認識されているため、取り込んだ遠近情報(消失点)を使ってのデザインに役立ちます。ドールハウスの外観と内観をモバイル端末で撮影し遠近を解析させをIllustratorに取り込み、ドールハウス内の部屋に犬の画像を合成するデモが披露されました。

▲遠近は描画アプリでスマートガイドとして利用できる

モバイルデバイスでモーションを作成:MaestroMotion

タッチデバイスでタッチ操作(モーションスケッチ)がそのままAfter Effectsのモーションになる技術。

頭の中にあるモーションのアイデアを具体化することが目的。作成したモーションはCreative SyncによってAfter Effectsへ同期させレイヤーへのキーフレームとして使うことが可能です。

▲タブレットで動かしたい方向に向かって指でなぞる

▲動かした指がモーションスケッチされる

▲After Effectsの動画作成に役立てることができる

未来の画像検索:Louper

人工知能を使い、似ている画像を検索する技術。

2枚の写真の要素に該当している画像を検索したり、複数の画像の色情報をもとに検索することが可能(Google画像検索との違い)。画像検索によってテキストで画像を検索するよりも賢く検索できる、ということがアピールされました。

▲異なる画像の要素でAND検索された

新しいプロトタイプツール「Comet」の未来の機能:Design With Real Data

アドビの新しいプロトタイプツール「Project Comet」で使用するダミーデータを自動で取り込むための技術。

Project Cometはリストなどデータの流し込みが必要な場面で役立つデザインツールです。デザインをする際にダミーデータ(文言や写真)を設定するのは面倒な作業です。「Design With Real Data」はリアルのデータから自動的に文言や写真をデザインに流しこむ技術です。Googleスプレッドシートやウェブページをデータソースとし、文章や画像が自動的にデザインに反映されます。Behance(アドビのポートフォリオサービス)からダミーの画像を適用したり、Adobe Stock(アドビのストックフォトサービス)からダミーの画像をProject Cometに反映されるデモが披露されました。

▲Googleスプレッドシートの情報から、デザインに流し込みができる

BehanceやAdobe Stockで実際に使われている具体的なデータを使用するので、高品質なデザインカンプがより素早く作ることができるという印象を受けました。

まとめ〜製品に搭載され我々クリエイターが使える技術になるかもしれない

アドビの真骨頂ともいえる「Adobe Magic」。画像加工技術・映像/音声解析技術・フォントの強みを中心にアドビの超絶変態的神機能(筆者が受けた印象をそのまま言葉にしました)が紹介されました。ここで紹介されたものは、実験的な技術なので必ずしも将来製品に実装されるかはわかりません。しかし、筆者は5回Adobe MAXに参加しスニーク・ピークを見てきましたが、スニーク・ピークで紹介された技術の多くが製品に搭載されていることを確認しています。

アドビはユーザーからの評判や意見を尊重する企業です。スニーク・ピークの冒頭ではTwitterでの反応をアドビはチェックしていると説明していました。今回のスニーク・ピークで欲しいと思った機能があれば、Twitterで発信すると実際に搭載される可能性が増すかもしれません。

アドビの底力が披露されたスニーク・ピーク。そのとてつもないアドビの技術は、スキルと熟練を要するクリエイティブの作業を誰もが享受できるようにしたいというアドビの意思を感じました。クリエイティブの未来を垣間見ることができたAdobe MAX。昨日の基調講演のレポートに続き、明日(最終日)のアドビのセッションをICS MEDIAではレポートします。ぜひ引き続きチェックくださいませ。

池田 泰延

ICS代表。筑波大学 非常勤講師。ICS MEDIA編集長。個人実験サイト「ClockMaker Labs」のようなビジュアルプログラミングとUIデザインが得意分野です。

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