ウェブ制作者のためのNoto Sans JP最新実装ガイド

Notoファミリーは「すべての言語で文字化けのない世界」を掲げて開発されたフォント群です。通常のフォントでは、該当する文字(グリフ)が存在しない場合、代替として四角い記号が表示されます。この四角い記号は「□」のような形で表示され、見た目が豆腐のブロックに似ていることから「豆腐(Tofu)」と呼ばれています。そんな中、Notoファミリーは、豆腐のないフォント=No Tofuを意味して「Noto」と命名されたことは有名なエピソードです。

「Noto Sans JP」は数多くのウェブで利用されています。今年4月のWindowsにもNoto Sans JPが搭載され大きな話題となりました。しかしNotoフォントは2014年の登場から11年以上経過し、複雑な状態になっているのも事実です。

  • Noto Sans JP、Noto Sans Japanese、Noto Sans CJK JPなどたくさんの名前がある
  • GoogleとAdobeでそれぞれフォント名が異なる
  • CSSのfont-feature-settingsプロパティーの可否が環境により異なる
  • Google Fonts由来のファイルサイズが読み込み速度の悪化の要因となる

この記事では2025年時点の事実を整理し解説します。

この記事のゴール

  • 複数の種類があるNotoフォントの違いがわかるようになる
  • ウェブ制作で使うNotoフォントを特定できるようになる
  • 古い知識をアップデートする

NotoフォントのOSの搭載状況

それぞれのOSに搭載されているNotoフォントを説明します。

WindowsにはNoto Sans JPが標準搭載

2025年4月のWindows UpdateでNotoフォントが以下のように搭載されました。

Windows 11 Windows 10
Noto Sans JP 搭載 搭載
Noto Serif JP 搭載 未搭載

マイクロソフトは「日中韓(CJK)環境のWebブラウジングでテキスト品質とユーザー体験を向上させる」目的でNotoフォントを追加したと説明しています。Windows 10でNoto Serif JPだけが搭載されていないのは謎ですが……。

ChromeとEdgeでは、デフォルトフォントがNotoフォントになっており、font-family: sans-serifでNoto Sans JPが、Windows 11においてはfont-family: serifでNoto Serif JPがあたります。

Windows 11のOS内のfontsフォルダーにはファイルとして「NotoSansJP-VF.ttf」「NotoSerifJP-VF.ttf」が格納されています。ファイル名の「-VF」は「バリアブルフォント」を指します。

通常のアプリケーションからは「Thin」「Regular」「Black」など7種類のウェイトとして利用できます。

▼メモ帳

従来のWindowsでは「メイリオ」、「游ゴシック」、「MS Pゴシック」といった癖や課題のある和文フォントが一般的でした。2018年に「BIZ UDゴシック」が搭載されましたが、残念ながらウェブ制作では注目されていません。そういった経緯もあり、Windowsで知名度のある「Noto Sans JP」が標準的に使えるようになったことは、ウェブの大きな躍進と筆者は評価しています。

AndroidではNoto Sans CJK JPが搭載

AndroidにはNoto Sans CJK JPが搭載されています。Android 15(2024年10月リリース)からバリアブルフォントとして搭載され、font-weightのバリエーションが豊かに表示できるようになりました。

なお、Android 6.0〜14までは、バリアブルでないNoto Sans CJK JPが採用されていました。1フォント1ウェイト(Regular)のみしか搭載されていなかったため、font-weight: boldではソフトウェア上で疑似的に太字化されていました(太字が少し汚かった原因です)。記事『Android 15で日本語フォントが大幅改善 #font - Qiita』が詳しいです。

Androidの注意点として、搭載されているのはNoto Sans CJK JPであるため、font-family: "Noto Sans JP"と指定しても適用されません。font-familyにはフォールバックとしてsans-serifを指定することが多いと思いますが、そのフォールバックに頼るのがよいでしょう。またAndroidは各メーカーがカスタマイズして導入しているため、必ずしもNoto Sans CJK JPが導入されているとも限りません(中国製Androidなど)。

AppleのOSには未搭載

iOS/iPadOS/macOSにはNotoの日本語フォントが存在しません。

また、Safariの挙動についても注意点があります。開発者がローカルでNotoフォントをインストールしていても、SafariはCSSのlocal()の参照を遮断するため、ユーザー環境では反映されません。プライバシー保護を目的とするWebKitの方針によるものです。

Apple系のOSで、Noto Sans JPを使いたい場合はウェブフォントに頼るしかありません。

余談ですが、macOSには「Noto Sans Javanese」というフォントが搭載されています。名前が「Japanese」に似ているので勘違いされがちですが、これはジャワ語(Javanese)のフォントです。Xでも「フォントの様子がおかしいなと思ったらNoto Sans Javaneseだった」「誤植と思った」といったポストを見かけます。

ウェブフォントの状況

提供元や配信時期によって、Notoフォントの名前やブランドが異なります。ここではそれぞれのフォントの違いを整理します。

Google FontsのNoto Sans JP

Noto Sans JPの導入方法としてもっともメジャーなのが、Google Fontsでしょう。

Google Fontsで配信されているNoto Sans JPは2024年からバリアブルフォントになりました。詳細は記事『次世代のフォント技術 バリアブルフォントの世界』に譲りますが、バリアブルフォントは太さなど自在にカスタマイズできます。

CSSではfont-family: "Noto Sans JP"と記述しますが、Google Fontsのウェブページでは「Noto Sans Japanese」と掲載されています。「Noto Sans JP」か「Noto Sans Japanese」のどちらの表記が正しいのか紛らわしいです。

Google Fontsでは、Unicode文字範囲の最適化によって配信容量がケアされています。通常、日本語フォントはJIS第1水準の漢字を含む完全版で1ウェイトあたりwoff2で1〜4MB程度の容量になります。Google Fontsの配信最適化の仕組みのおかげで必要な文字範囲のみが配信され、実際の転送量は大幅に削減されます。詳しくは『高速で美しいウェブフォントを実現する API  |  Articles  |  web.dev』を参照ください。

▼いまのGoogle Fontsは「/css2」というアドレスになっています

<link
  href="https://fonts.googleapis.com/css2?family=Noto+Sans+JP:wght@100..900&display=swap"
  rel="stylesheet"
/>

Google FontsのNoto Serif JP

Noto Serif JP(Noto Serif Japanese)は明朝体フォントです。仕組みはNoto Sans JPと同様です。

Google Fontsの旧Noto Sans Japanese(早期アクセス)

2014年〜2016年ごろの試験配布版として「Noto Sans Japanese」が提供されていました。この頃のフォント名は「Noto Sans Japanese」です。現行「Noto Sans Japanese(Noto Sans JP)」に対して、本記事では旧Noto Sans Japaneseと記載します。

当時の配信方法は、ウェブフォントをまるごとファイル(woff, woff2, eot)で配信してました。ウェブページの配信速度の観点からは、あまりオススメできません。もしお使いのウェブサイトが以下の指定になっているようであれば、新しい現行Noto Sans JPに見直すことをオススメします。

▼パスに「earlyaccess」が含まれているのが古い配信方法です

<link
  href="https://fonts.googleapis.com/earlyaccess/notosansjapanese.css"
  rel="stylesheet"
/>

Adobe FontsのNoto Sans CJK JP

Noto Sans CJK JPはGoogle FontsではWebフォントとしては提供されていません。Adobe Fontsで提供されていて、7ウェイト存在します。

なお、CJK(日中韓)フォントでは、HTMLのlang属性によって字形が変化します。

Adobe Fontsの源ノ角ゴシック(Source Han Sans)

Adobeブランドで提供されているものが「源ノ角げんのかくゴシック(英名:Source Han Sans)」です。名前やウェイト表記を除いてNoto Sans JPと同じフォントです。そもそもが、源ノ角ゴシック/Noto Sans JPともにAdobeとGoogleとの共同開発であり、Adobeの西塚涼子さんらが中心となって作られたフォントです。

2014年に初版が公開され、2021年にバリアブルフォントも提供されました。

Adobe Fontsから複数の種類のフォントが提供されています。

Adobe Fontsの源ノ明朝(Source Han Serif)

源氏げんじ」「源頼朝みなもとのよりとも」と空目しそうな名前ですが、「げんのみんちょう」と呼びます。こちらは明朝体で、仕組みは「源ノ角ゴシック」と同じです。2017年に初版が公開され、2021年にバリアブルフォントも提供されました。

Google Fontsを利用するときの注意点

ウェブ制作者にとって注意したいのは、マシンにあるにもかかわらずウェブフォントを配信してしまうことでしょう。

Google FontsからNoto Sans JPを読み込むと、否応なくウェブフォントが送信されます。Windowsに搭載されているにもかかわらず、です。手元にフォントがあるのに、ムダに通信容量がかさむ、といった具合です。

モバイル回線では帯域を圧迫する要因となり、Lighthouseの性能スコアに悪影響が出やすくなります。

回避方法

対策として、以下のCSSのコードで回避できます。WindowsではローカルのNoto Sans JPを読み込ませ、iOSなど別環境ではGoogle Fontsを読ませます。

ローカルのNoto Sans JPをカスタムフォント名として定義し、Google Fontsより優先させています。

<!-- Google Fonts の読み込み -->
<link
  href="https://fonts.googleapis.com/css2?family=Noto+Sans+JP:wght@100;900&display=swap"
  rel="stylesheet"
/>

<style>
  /* @font-face でローカルフォントを優先 */
  @font-face {
    font-family: "Local Noto Sans JP";
    src: local("Noto Sans JP");
  }

  body {
    font-family: "Local Noto Sans JP", "Noto Sans JP", sans-serif;
  }
</style>

Androidはlocal()の名前が特定できなかったため、調査後に追記します🙇‍♂️

font-feature-settingsの利用可否

フォントにはOpenTypeの機能があります。カタカナなど字間のアキを詰めることで、タイポグラフィーとして美しく表示する、といったことができます。詳しくは記事『文字詰めできるCSSのfont-feature-settingsが凄い! 日本語フォントこそ指定したい自動カーニング』をご覧ください。

このfont-feature-settingsについて、利用できる場合とそうでない場合があります。そのため、状況をまとめました。

フォント palt pwid 補足
Windows搭載のNoto Sans JP フォントは2025年に搭載
Android搭載のNoto Sans CJK JP
Google FontsのNoto Sans JP × 2024年からpaltが利用可能に
Adobe Fontsの源ノ角ゴシック

font-feature-settings: "pwid"font-variant-east-asian: proportional-widthに相当します。詳しくは記事『CSSのfont-variant活用術』を参照ください。

結局、どうすればいい?

3つの案を提案します。

①配信速度より、表示の一貫性を重視するなら、Google FontsのNoto Sans JPから導入するのがいいでしょう。上記のWindowsでのフォント配信の課題はありますが、大胆に割り切って一律導入とすれば、考えることが減ります。

②サイトの表示速度を重視するなら、ウェブフォントを導入せず、font-family: sans-serif; と指定するだけで十分と言えます。これだけでWindowsとAndroidはNotoフォントでカバーできます。iOSやmacOSでは幸いにも美しいヒラギノ書体が存在するので、Noto Sans JPでなくても問題ないと判断してもいいでしょう。

唯一の懸念として、Windows Updateを行っていない利用者がいることです。企業や学校など特定環境では簡単にWindows Updateができないユーザーもいることでしょう。そういったマシン環境では、Noto Sans JPがまだ導入されていないはずです。配信開始から約3か月が経過したため普及が進んでいると思いますが、統計などで断言できないのが難しいところです。

③最後の提案として、Noto Sans JPを導入せず、無難な旧来方式の「メイリオ」主体のフォント指定をします。

ユーザーは普段見慣れた字形が変わることに違和感を持つことが多いです。4月のWindows UpdateですらNoto Sans JPへフォントが変わったことで多くの不満の声がでたことも事実です……。

まとめ

日本語のNotoフォントを整理をしました。Windowsに標準搭載されたことのインパクトが大きく、今後のウェブでさらに利用が拡大していくはずです。さまざまなOS・ブラウザ環境の動向にキャッチアップしつつ、最適なフォント選定に取り組んでいきましょう。

SNSでシェアしよう
シェアいただくと、サイト運営の励みになります!
X(旧Twitter)へポスト
はてなブックマークへ投稿
URLをコピー
池田 泰延

ICS代表。筑波大学 非常勤講師。ICS MEDIA編集長。個人実験サイト「ClockMaker Labs」のようなビジュアルプログラミングとUIデザインが得意分野です。

この担当の記事一覧